2012年10月4日木曜日

チョコレートカスタマイズ 2


前回までのあらすじ
長女がバレンタインのチョコを輸入しようとしているのに、おやぢである「ともだち」が能書きこいて邪魔している
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まず
さいしょに
チョコレートがどうやってつくられるのか

見てみる事にしよう

チョコレートの原料はカカオだと言ったが
古代アステカの時代から
カカオの加工ほうほうは
きほんてきにへんかしていない
いや、本質は、まったく変わらない
とまで言ってもいいかもしれない

カカオはまず
瓜状の大きな実から
どろどろの白い種をとりだして
発酵させ、火で焙り、天日で干す
この発酵と、焙煎が、豆に微妙なががくはんおうをおこし
あの
われわれを虜にする風味になるのだ

発酵と焙煎をおこなうもので
有名なのは中国のウーロン茶だが
いずれにせよ
独特の風味のためのかがくはんのうは
カカオにも欠かせない

アーモンドやコーヒーも
焙煎を行うたべものだが
カカオの精製は、よりふくざつだ!
これをして、リンネが、カカオを
神々のたべもの(テオブロマThe Food of God)と命名したのもうなづける
カフェインなどのアルカロイド(えんきせいのゆうきかごうぶつ)の一つである
テオブロミン の名は テオブロマからなるが
地球上で豊富に摂取できるのは カカオだけだ
この稀少さのからくる芳香が 古代のひとびとを
引きよせたのにちがいない!

ある人の説では
カカオの豆を
ぐうぜん火にくべて
良い香りがし チョコレートの製法をおもいついたという
焙煎されたカカオは
荒く砕かれ、カカオニブ(cacao nibs)になる


てことで、こんなこともあろうかと、
カカオニブを用意しておきまちたよ。長女


といって、ともだちは、ちゃいろい あぶらのすこし浮いた 小さな紙袋の中から
木の実をくだいたような
ガーナ産の ニブをとりだしました
それは 魔法のような 特殊な匂いで
キッチンをつつみこみます

「な、なんなんだよこれ!」
「カカオを砕いたものです
個人輸入しました。
昔のアステカの民も、まあこんな感じでニブにしたと思いなさい」

長女はその魔法のかけらを
ひとつまみ 手に取って
おやぢに 言います

「これじゃ縄文人の ドングリクッキーみたいだな」
「あのホットプレートで焼くやつね。でもまあごらんじろ!ホラ、匂いはどうだい?」
「ン、これはまんまチョコレートだな」
「けど、かじれば?」
「にがい!」

めをばってんにして 舌をだす長女よ
その通り スペイン人が来襲する前のアステカの民は こんな味を
どろどろにして のんでいた
しかしそれがたくさん飲めたのは一部のにんげん
貴族と戦士たち 選ばれた人だけだ
このにが汁が、人に活力をあたえることを
アステカの民は知っていた
恐らくそれは カカオに含まれる
カフェインと テオブロミンのせいではないのか

「まあいくらか香辛料はまぜたようだが
ベースは こんな味だった んだ」

長女は かじったニブを ステンレスの流しにはきだし
大王製紙の エリエールカロリーライトキッチンタオル
でくちをふいてから
「これじゃあ粘土をくちにふくむようなものだな。
ブタのえさにもなりゃしねえ!
こんなもの飲むやつら、
ほろびて当然だ とも思うぜ」
と言う。

確かに 甘い と 思っていたものが
苦かったショックは
大きいものだ わたしも うまれてはじめてとき
納豆は甘そうだ とおもって 食べたら苦いし
くさっている(人によっては発酵しているというが)ので あれから
もう何十年も食べてない 納豆は にがくて まずいものだ!

そうでなくとも 例えば石垣食品の ミネラル麦茶だ と思っていたものが
桃屋の麺つゆを二倍に薄めて 
冷やしたもので もし
それを一気のみしてしまったら と思うと
大塚製薬のポカリスエット だと思っていたものが
米のとぎじるだったら
それを一気のみしてしまったら
と思うと
ぞっとする
わたしたちの多くは 松竹芸能の
安田大サーカスのような
お笑い芸人ではない 長女もそれは おなじだ
だから、長女が、歴史から鑑みても チョコレートの民に
うらみがましいことをいって
のちの人びとを傷つけることがあったとしても
言葉でのことなら 今は しかたがないのかもしれない

実際、アステカの民は
にがじるを、よりによって器から器にうつして
わざわざ 泥遊びのように
泡立てて のむのだから 初めて見る人は
めんくらったにちがいない
しかし 実際
粘土(ベントナイト:bentonite)をおやつにしている人もいるしだな、
けれども
「ウンまあいいか。で、長女、これ(カカオニブ)に足りないものは
なんだ?」
「ん さ、砂糖? 甘さ?」
そう!、砂糖だ!

ともだちは長女をゆびさし
身を乗り出してから後
コップに一杯お湯をいれて
うがいをして
また一杯
こんどは砂糖をひとつまみ
いれて それを
のんだ

ゴクリ! チョコレートにたいせつなもの、二つ目は砂糖だ
甘さ、というものは、古来
たいへん ぜいたくなものだった
とういうのも
甜菜(Sugar beet)が発見されるまで、砂糖の
原料は、サトウキビ(甘蔗:sugarcane)だけだった
このサトウキビは栽培の北限を北緯30度
に持ちこれは
いわゆる「ヨーロッパ」といわれる国々は
ひとつもあてはまらない
その頃、砂糖はヨーロッパでは育てることのできぬ
種だったのだ!

この地理的な状況が、ヨーロッパを
近代世界の脳髄にした 原因の一つと
なった

「砂糖をもたらしたのは十字軍、これもスペインを征服したのと同じ
カソリックの名を冠した軍勢だ。けれど、砂糖はしばらく貴重品
だったし、これも教会が管理して、薬として扱われていた。
小学館のうる星やつらで竜之介のお父さんが、ケーキを食べながら
「これは大人のくすりじゃ」って言ってたの憶えてる?」
「としがばれるぞ」

「甘さ」というのは
はちみつからもとれたが
白く洗練された甘さというのは
生命のエッセンスであるとともに カソリックなんかの
豊かさの象徴(The Symbol of Wealth)
なんだったんだよね」
「ナンダッタ?」

ところで、スペインに渡って来た当時、カカオも、負けず劣らぬ
高級品 だったのだ なぜなら カカオの栽培の北限は
北緯20度とより狭い
つまり ヨーロッパで、カカオを栽培する事は
ぜつぼうてきだ!

カカオに砂糖を入れるというのは
今ならさしずめ
キャビア(caviar:イラン産3万)にドンペリ(Dom Pérignon:30万円(銀座:ゴールドラベル))をかけて、大トロ(キロ4万)をシャリのかわりにして
作る 寿司のようなものだ

「まずそうだな」
「試してもいないのに!」
チョコレートに砂糖を世界で初めていれてのんだのは
スペイン”カソリック王”カルロス一世とされているが
彼が行いたかったのは
恐らく世界の頂点であることのあかしだったろう

「しかし、こんなものが、どうやってコンビニで手に入るようになるわけ?パパ」
「そうなんだ 
チョコレートははじめ、豊かさの象徴(The Symbol of Wealth)
として、スペインに独占的に流れ込み
やがてヨーロッパの貴族たちのあいだで流行した。
けれど、
それは今ぼくらが知っている、チョコレートとは違うものだ。
淡い恋心を伝えるような手段に使える
スイートなチョコレートとは違うものだ
「甘さ(sweetness)」を、稀少品(luxuries)としてでなく、嗜好品(fixes)として
手に入れたところから、ほんとうのチョコレートの歴史は始まるのだが、
その趣向品となるチョコレートに必要だったもの、それはなんだろうか?
長女」
「ん、なんだよそんなのわかんねえよ」
ともだちは白い歯をみせてから
娘にいった
「それは
大量のさつりくと
黄金なんだ!」

つづく

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